恐竜から宇宙へ
~恐竜を絶滅させた小惑星のお話~
- 1恐竜を絶滅させた小惑星の衝突
- 2地球に接近する小惑星
- 3小惑星のなぞを探れNEW!
1恐竜を絶滅させた小惑星の衝突

恐竜絶滅の原因は?
恐竜は今から6600万年前に、突然姿を消しました。恐竜が繁栄した中生代が終わり、哺乳類の時代である新生代がはじまることになります。恐竜が絶滅した原因は、いったい何だったのでしょうか。
科学者は昔からいろいろな原因を考えていました。恐竜の間で病気がはやったため? 哺乳類に卵を食べられてしまったため? 地球の気候が変化したため? しかし、どれも恐竜の絶滅を科学的に説明できるものではありませんでした。
巨大な小惑星が落下した!
有力な説が登場したのは1980年のことでした。ノーベル賞科学者のルイス・アルバレスとその息子のウォルター・アルバレスは、中生代と新生代の地層の境界にある粘土層にイリジウムという物質がたくさん存在していることを発見しました。イリジウムは地球にはあまり存在しません。隕石などによって宇宙からもたらされる物質です。そこで、アルバレス父子は、中生代の末に巨大な隕石衝突があったのではないかと考えたのです。
その後、メキシコのユカタン半島の地下に、直径200kmに達する巨大なクレーター地形が発見されました。これが恐竜を絶滅させた隕石の衝突跡だったのです。
太陽の光が届かなくなった
恐竜の絶滅は次のようにして起こったと考えられます。
ユカタン半島に落下したのは、直径10~15kmもの大きさの小惑星だったと考えられています。衝突によって生じたすさまじい衝撃波がすべてをなぎはらい、高熱が巨大な火災となって地球表面を焼きつくしていきました。小惑星が落下した場所は陸地と海の境界だったため、高さ1,000m以上にもなる大津波も発生しました。
それだけではありません。
衝突によって大量のチリがまき上げられ、地球全体をおおいました。そのため、太陽の光は地上に届かなくなりました。暗く冷たい夜が何年も続き、植物は枯れてしまいました。そのため、植物を食べていた恐竜も、さらにそれらの恐竜をえさにしていた肉食恐竜も食べるものを失い、死に絶えたのです。
恐竜の子孫は生きている
この大異変で、当時の生物の70%が絶滅したといわれています。哺乳類の一部は生き残ることができました。体温を一定に保つことができ、体のサイズが小さかったため、寒い中でも生きていけたと考えられます。ワニ、カメ、ヘビ、トカゲなどの爬虫類や両生類も一部は生き残ることができました。
恐竜の仲間では鳥の一部だけが生き残りました。羽毛をもっていたことや、空を飛べたことが有利にはたらいたのかもしれません。その結果、私たちは恐竜の子孫と一緒に暮らすことになったのです。
2地球に接近する小惑星


小惑星とはどんな天体?
今から6600万年前に恐竜を絶滅させたのは、巨大な小惑星の衝突でした。では、小惑星とは、いったいどんな天体なのでしょうか?
火星と木星の軌道の間には無数の小さな天体が存在しています。これが小惑星とよばれるものです。
小惑星は、今から46億年前に太陽系が誕生したときに、地球や火星のような惑星になれなかった岩石のかけらからつくられています。長い間に、岩石のかけらは合体してより大きな天体になったり、衝突して小さな破片になったりしました。こうして現在、無数の小惑星が火星と木星の間にベルト状に存在しているのです。
小惑星は、ときどき地球に落下してきます。そのほとんどは大気中で燃えつきてしまいます。しかし、小惑星のサイズが大きい場合には、燃えつきずに地上に落下することがあります。それが「隕石」です。
小惑星の落下は、地上に被害をもたらすこともあります。2013年、ロシアのチェリャビンスク州に隕石が落下しました。落下してくる隕石が発生させた衝撃波で多くの建物の窓ガラスが割れ、けが人が出るなどの被害がありました。このとき落下した小惑星の大きさは直径15mほどだったと考えられています。
もしも地球に落下する小惑星がもっと大きかったとしたら、地球規模での被害が起こることになります。それが、6600万年前の恐竜絶滅だったのです。
では、そのような小惑星はどこからやってきたのでしょう。小惑星ベルトからやってきたのでしょうか?
実は小惑星のすべてが小惑星ベルトに存在するわけではありません。小惑星の中には、地球のすぐ近くを通るものもあるのです。このような小惑星は「地球近傍小惑星」とよばれています。恐竜を絶滅させた小惑星は、おそらく地球近傍小惑星だったのでしょう。
地球近傍小惑星は現在2万3000個以上も発見されています。その中には、地球に衝突すると大きな被害が発生する危険のある小惑星もあり、NASA(アメリカ航空宇宙局)は常に監視をしています。
日本の小惑星探査機「はやぶさ」は2010年に、小惑星イトカワの微粒子を地球にもち帰りました。2020年12月には、「はやぶさ2」が小惑星リュウグウの岩石を地球にもち帰る予定です。日本の小惑星探査機がおとずれたこの2つの小惑星の軌道は次のようなものです。
どちらの小惑星も、太陽から一番離れたときには火星の軌道のすぐ外側に出ますが、太陽に一番近づくときには地球の軌道を横切っています。こうした小惑星は「アポロ型小惑星」とよばれています。恐竜を絶滅させた小惑星も、イトカワやリュウグウと同じ仲間の小惑星だったかもしれません。

3小惑星のなぞを探れ

「はやぶさ2」、間もなく地球に帰還
2010年、日本の小惑星探査機「はやぶさ」は小惑星イトカワの微粒子を地球にもち帰りました。「はやぶさ」の成功によって、小惑星探査ミッションの新しい時代がはじまりました。
小惑星リュウグウの岩石を採取した「はやぶさ2」は、現在、地球に帰ってくる途中です。「はやぶさ2」は2020年12月6日に、リュウグウのサンプルを収めたカプセルを地上に落下させることになっています。

NASA(アメリカ航空宇宙局)も小惑星探査機「オサイリス・レックス」を、ベンヌという小惑星に送っています。「オサイリス・レックス」は2020年10月にベンヌの岩石を採取して、2023年に地球に帰ってくることになっています。
小惑星のなぞを探る
こうした小惑星探査ミッションには、いくつかの目的があります。
1つ目は、小惑星を研究して、太陽系の歴史を知ることです。小惑星は古い時代につくられたまま、あまり変化していないと考えられています。ですから、実際の小惑星の岩石を調べることは、太陽系の過去をしらべている科学者にとってとても大事なことなのです。
2つ目は、地球の生命がどうして誕生したのかを研究することです。地球に生命が誕生したのは、水が存在したためでした。なぜ地球は水が存在する惑星になったのでしょうか? また、生命をつくる材料は有機物というものですが、その有機物はなぜ、地球に存在したのでしょうか?
「はやぶさ2」がおとずれたリュウグウや「オサイリス・レックス」がおとずれたベンヌは、「C型」とよばれる小惑星です。C型小惑星は水や有機物をふくんでいると考えられます。そのため、C型小惑星の岩石をしらべることは、私たちがなぜ地球上に存在しているかを知るてがかりになるのです。
小惑星の衝突から地球をまもれ!
小惑星探査ミッションのもう1つの目的が、最近注目されています。その目的とは、「小惑星の衝突から地球を守る」ことです。
現在、地球に接近する小惑星はたくさん発見されていますが、地球に衝突すると予測されている小惑星はありません。しかし、将来、そのような小惑星があらわれたらどうすればいいでしょうか?
地球への衝突をふせぐには、その小惑星の軌道を変えなければなりません。はたして、そのようなことは可能でしょうか?
これをしらべようとする計画が、今、NASAで進んでいます。DARTとよばれるミッションです。
DARTは2021年に打ち上げられ、2022年に、ディディモスとよばれる小惑星のまわりをまわるサイズの小さな小惑星に衝突することになっています。その時の衝突で、小惑星の軌道がどのくらい変化したかを、地上から観測することになっています。

まるでSF映画の世界のようですが、恐竜を絶滅させたような小惑星の衝突から地球をまもるために、実際にこうした計画が進んでいるのです。